なぜ何かを隠さなければならなかったのか


 隠されたものが何もなかったから。
 何かを隠さなければ人間にはなれない。
 だから、隠せるものなら何でもよかったのかもしれない。
 でも本当に?
 まだ十分ではない。
 隠すものとして<それ>が選ばれたことには、(アイデンティティなどという戯言は論外にしても)「心理的」ではない、何か別の理由があったはずだ。
 その理由が、どうしても思い出せない。
 だから本当に隠されたのは、<それ>ではなく、<それ>が選ばれた理由である、とも言える。