背中を愛する、生まれなかった子供


 背中には一度も生まれなかった子供が張り付いている。
 水子の表象は適切だが、その子はわたしたちすべての背中に張り付いた<失われたわたし>だ。
 かつて<わたし>であったもの(モノ)、それは一度も物語の中には登場していない。なぜなら、そのモノから切り離されることで、わたしたちは物語ることを始めたからだ。
 あなたを愛する人はあなたの背中を愛する。
 あなたはあなたの背中を見ることができないが、そこに穿たれたモノの領域だけが、あなたと絶対的第三者を仲立ちしている。