それゆえ、重要なのは、従者が熊の元へ導いていると見せかけて熊を避けている、ということではない。
従者は熊を避けたいが、そもそも熊の居場所など最初から知らない。
すなわち、従者は熊への導き方はもちろん、避け方も知らないのだ!
従者が従者であり得るのは、王子が従者は知っていると信じているからだ。
熊のことは誰も知らない。ただ熊だけが知っている。
熊と出会いたい者も避けたい者もいるが、結局のところ出会う方法も避ける方法も誰一人皆目見当もつかない。
ただ様々な想定とルールだけが存在する。
熊が好むと言われる食べ物、熊が苦手とされる打ち物、就寝前の儀式、守るべき倫理規範、手を洗う回数、バランスの取れた食生活、適度な運動・・・。