人体切断の記憶


 分断してみるとどちらが<わたし>になるのかと思ったら、やはり「こちら」が<わたし>になった。
 <わたし>とは「こちら」に残るもののことだ。
 何か残ったもの、それが<わたし>だ。だから<わたし>が在るためには、残らなかったもの、失われたものが必要になる。決定的な何か、「本当は一番重要だったはず」の何か、それが失われなければならない。
 人体切断の記憶を失った者を「人間」という。地上に存在する値打ちのない醜悪な者のことだ。